[現場レポート] 歯科衛生士の魅力を広げたい！(歯科衛生士/佐藤久美子さん)

実は、歯科に対しての恐怖心は物凄くありました。小学生の頃から短大生の頃まで大学病院で矯正治療を受けていた事が原因だと思います。何十台も並ぶユニットにビックリしたり、研修研修医の先生や、学生さんにいきなり口に中をのぞき込まれた時は嫌で嫌で仕方がありませんでした。矯正治療を受けている時は口を開けた状態での待ち時間が長かったので、“私だったらこんな風に接するのに・・・。”“あの若い先生だと痛いよね・・・。”なんて事をぼんやり考えていました。今思い出してみれば仕事をしている理想像やモチベーションというのは潜在的に存在している想いから湧き出ているのかも知れません。
直接的なきっかけというのはまた別にあるのですが、今までの人生を振り返ってみると自分に適している職業なんだという事を常に実感しております。

歯科衛生士の魅力というのはズバリ！「患者さんとの距離」 だと思います。ドクターと同じ様な治療は行えませんし、診断もすることは出来ません。しかしながら私たちはメインテナンスを通して一人の患者さんと、とても長い時間を共有する事が出来ます。そこには自然と信頼関係が生まれ、その信頼関係は時にドクターにも勝るような力があると信じています。その信頼関係を生み出す為に私たち歯科衛生士は口腔内だけでなく、患者さんのストレスを表す仕草や生活背景、趣味や家族構成などにも目を向ける必要があります。それらを得る事で信頼関係はますます向上し、患者さんのQOLを向上させる事も可能です。ドクターは短距離走、歯科衛生士は長距離走の選手だと私は考えています。タイプは違えど目指すゴールは同じですからお互いを信じチーム医療を行う事が可能となるのです。

昨今、各所に起こる様々な災害は私たちに深刻な被害と悩みを与えます。
私が住んでいる新潟県でも2005年に新潟中越大震災という大きな地震が起きました。私自身の被害はありませんでしたが、被災地の映像が目に入る度に胸が締め付けられる想いでした。
そして県内の高速道路が一部開通したその日に私は被害の大きな中心地に向かっていました。
1日3回配給される菓子パン。「食べ物があるだけ幸せ。」と被災者の方々は口を揃えて仰っていましたが、それが3日も続くと次第に口数が少なくなっていきました。そしてちょうど3日目に、あるお婆さんとお話をする機会がありました。「食欲がないのですか？」減っていないパンを片手にしているお婆さんに聞いてみると「こんな事を言うのは恥ずかしいのだけど、入れ歯を持って来れなくてね・・。食べ辛くてね。」既にそのお婆さんは消化不良のために、一日に何度もトイレに行っている状態でした。この時ほど歯科衛生士の自分が情けなく思った事はありませんでした。誰よりも一番に考えられたはずなのに・・・。それから自衛隊に掛け合って暖かい食事を配る事が出来て、お婆さんのお腹の調子も安定しました。大変な事だらけではありましたが、“大変な時だからこそ自分の出来る事を考えて行動しよう！”と改めて考えさせられた出来事でした。

私が今後の目標として掲げているのは“幅を広げられる歯科衛生士になりたい”と言う事です。感染管理の勉強に取り組み学会認定資格を取得したり、患者さんとのコミュニケーションを円滑に行う為の勉強には余念がありません。仕事場でも自宅でも時間さえあれば本を読んでいますし、休日も可能な限りセミナーや学会に参加し、歯科衛生士の資格を有効利用していきたいと考えています。せっかく取得した国家資格です。誰にでも取れる訳ではありません。中には“休みの日まで勉強会なんて！”と考える方もいらっしゃると思います。以前は私もそう考えていました。ですが、もっと患者さんと関わりたい！もっと患者さんの期待に応えたい！と言うプロフェッショナルな気持ちが芽生えたら、きっと時間が惜しいと思う程に歯科に対しての取り組み方が変わってくると思います。
私は講演会で、信頼関係が大切、ドクターと同じ位の知識量が必要！と受講された方々に伝えていますが、
“何故そこまで私たちは頑張らないといけないのか分かりますか？”と皆さんに必ず問いかけます。私たち歯科衛生士にはやらなければならない理由があります。それは“歯科医療従事者”だからです！！！答えは単純明快。初心に戻れるとても分かりやすい理由なのです。

“歯科医院が楽しみで足を運んで頂ける患者さん”ってどれ
だけいらっしゃると思いますか？
来院される患者さんは痛みと不安を抱えたとてもネガティブな感情をお持ちの方々だと思います。私はそんな患者さんに笑顔でお帰り頂きたいです。ただその願いを叶えるために日々の仕事と向き合っています。何のためにこの仕事をしているのか？生活の為？医療従事者だから？患者さんの笑顔が見たいから？・・・。恥ずかしいけど口にしてみましょう！そしてチャレンジしてみましょう。
例えば、“この前はあまり話が弾まなかったAさん。今日はもう少し本音を引き出せるように頑張ってみよう！”というように一日一日に小さな目標を設定する事はとても励みになります。そしてその目標は必ずしも一日で達成出来なくても良いのです。出来なかったら“どうやったら達成出来るかな？”と考えることで一日前とは違う成長した歯科衛生士さんがそこにいるはずです。

日頃行っている治療も日常になりすぎて、「何のために行っているのだろう？」とモチベーションが下がってくる方もいるかも知れません。常に高いモチベーションを保つ事は難しい事なのかも知れませんが、患者さんを自分の家族や友達のように捉え、距離感を大事に想う事で維持出来ると考えています。
また、どんな形でも学会や勉強会に参加する事はモチベーションアップになると思います。私は学会認定の資格を持つ事はとても有効だと思います。勉強するきっかけにもなりますね。現在、様々な学会認定の資格はあると思いますが、資格を持つ事によってモチベーションや自信も向上するでしょう。また、学会認定資格は更新する時に単位が必要ですから、必然と学会に参加していかなくてはなりませんし、刺激を受ける分「もっと勉強をしないと！」と思えるはずです。ただ、学会認定資格はドクターの協力が無いと取得する事が難しい場合が多いですね。
幸いなことに歯科は様々な分野がありますから、まずは興味を持った分野の資格を取る準備をすると良いと思います。いきなりドクターと同じ勉強会ではなく、業者さんが主催する地域の歯科衛生士さん向けの勉強会から参加してみる事もお薦めします。でも、ドクターと同じ勉強会に参加する事で同じ考えを共有しチーム医療が確実に向上する事を考えると、難しいけれども魅力的ではありますね。
それと、高いモチベーションを保つには単純に“褒められたい”“認められたい”という誰もが抱く想いも大きな割合を占めているように思います。と言うのも、歯科の国家資格には3種類（歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士）ありますが、唯一歯科衛生士だけが独立出来ない立場です。だから私は少しコンプレックスがあるのかもしれません(笑)
そんなコンプレックスがあったとしても、3者の中で一番患者さんに身近な存在にいられるのは私たち歯科衛生士ではないでしょうか。患者さんの為に何をしてあげられるか。そう頭で思い描く事が出来るのは私たちが“歯科医療従事者”だからです！モチベーションは体調と同じ。順調な時もあれば不調な時もある。それを認めてあげましょう。それは自分にだけでなく同じ職場のスタッフにも声をかけてあげたいものですね。「頑張れ頑張れ！！」だけでなく、「頑張っているね！」の一声って嬉しいものです♪

誰でも初めは素人です。多くの経験がある素晴らしい歯科衛生士さんだって何年もドクターや先輩歯科衛生士さん、時には患者さんから叱咤激励を受けて成長しています。初めからパーフェクトに出来る人間なんてどこにも居ないのです。しかし、常に切磋琢磨し自己研鑽を怠らず、自分に出来る患者さんへの精一杯の仕事に対する情熱を表現することで成長出来るのでは？と考えています。自分の可能性を自分で閉じ込めることなく、チャレンジ精神を忘れず人生を歩んで行きたいものです。たった一回しかない人生の中で歯科衛生士を選択した自分を褒めてあげたいですからね！