[クローズアップ・ドクター] 予防歯科のエキスパートに聴く!(安田 登 院長先生/キャビネ・ダンテール・御茶ノ水)

クローズアップ・ドクター

予防歯科のエキスパートに聴く!

予防・メンテナンスが主流になりつつある
これからの歯科業界について
安田 登 先生にお話をお聞きしました。

安田 登 院長先生

キャビネ・ダンテール・御茶ノ水 http://toothfairy.jp/
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台1-5-5レモンパートⅡビル2階
安田 登 院長(歯学博士)
1944年 東京都出身
1971年-1973年 パリ大学医学部大学院 (フランス政府給費留学生)
1975年 東京医科歯科大学大学院卒(医用器材研究所 有機材料部門)
1986年 東京医科歯科大学歯学部講師
1999年 東京医科歯科大学歯学部臨床教授(~2006年)
2012年 キャビネ・ダンテール御茶ノ水院長
NPO法人「歯と口の健康を守ろう会」理事長
前日本接着歯学会副会長
日本審美歯科学会理事
日本補綴歯科学会代議員

こだわりの歯科医院

医院のコンセプト

歯科医院=企業の考え まず最初に私は虫歯や歯周病はある段階を越すと治らない、治せない感覚を持っています。 私は日頃から診療をする上で、患者さんにお伝えする事があります。それは歯科での病気には疾病の部分と障害の部分があり、疾病とは症状が非固定的で治療が可能なもので、一方では障害とは症状が固定的で治療が不可能なものであると話しています。
歯科の病気と言うのは、疾病の部分が少なく意外にも障害の部分が多いと思っています。障害と考えれば既に治らないことが前提になります。私の持論ですと歯科の病気のほとんどは治せない症状ですから患者さんにとってのQOLをいかに高めていくかを第一に考えています。 ただ、虫歯や歯周病など患者さんは治る、治せるとの意識が強いのですが、障害となってしまった場合は、仮に私が治療をしてもそれは完全には治っていない状態です。ですからメンテナンスをする事が極めて必要になるので、患者さんには必ず通い続けて下さいと説明しています。
その事をいろいろと考えていきますと、患者さんにとって一番良い事は障害にさせない事であると思っています。その為には必然的に予防をする事が最も重要だと思います。 当院のコンセプトは予防(定期健診)・メンテナンスに特化し、歯の病気から未然に防ぐ事に努めてします。
「予防」というと公衆衛生的なものと考えがちですが、歯科医院に来院される患者さんにいくら「予防」が重要だと伝えても「予防」いう言葉だけでは患者さんは動かないのが現状です。より「予防」を広めていく為に個々の歯科医院が「予防」に関する啓蒙活動・歯科衛生士による情報伝達する事が良いと思います。 当院では、サロンの中から気付かない形で文化的なコミュニティーを作れればと思っています。一般的な歯科医院では無く、サロンのような歯科医院とイメージしています。サロン=人が集まる場所と位置付けています。


フランス留学のきっかけ

開業はいつ頃から3年間フランス留学を致しました。大学院(東京医科歯科大学)に入って半年くらいでフランスに留学する機会がありました。留学のきっかけは本当に偶然、医局にフランス留学のチラシがあり、行ってみようかなと軽い気持ち程度でした。最初の半年間は南フランスのプロバンスでした。非常に感動的でした。文化・人・風景など当時の私には全てが新鮮で強烈でした。当院も南プロバンスをイメージしたものになっています。その後、パリに勉強の場を移しました。
フランス留学では数々の経験をさせてもらいました。治療レベルは日本と左程変わらないと思いますが、インプラントなどの治療はかなり進んでいたと思います。患者さんもデンタルIQも高く、国民が歯科に関して高い関心を持っていましたね。 インプラント治療に関しては、フランスは間違いなく世界のトップを走っていたと思います。
当時の日本はインプラントを受け入れる環境では無かったので、その経験は非常に貴重なものになりました。
フランスは奥の深い国でした。中でもフランス人と接してみて、その国民性は論理を組み立ててしっかりと意見を伝えると言う国民性です。しっかりと説明しなければ患者さんは納得して治療をさせて貰えません。今でこそ、インフォームドコンセントが定着化していますが、フランスでの経験が患者さんとの接し方の基本になりました。 3年目を迎えた頃だったと思いますが、周囲の先生方の私に対する接し方が徐々に変わってきたように感じました。ちょうどその頃に給与を貰えるようになった時でした。今まではお客さん扱いだった対応がライバルとして接してきた事に私なりに自信になりました。


定期健診の重要性

定期健診の受診率を上げるためには

採用するポイント医療保険制度によって左右されと思っています。 現状の保険制度では何から何まで網羅しており、安価で治療が受けられます。その為、国民の一人ひとりが虫歯になれば歯医者に行けば良いと思っている状況です。ですから虫歯にならないように定期的にメンテナンスをしよう!って思っている方は少ないと思いますので受診率を上げる事は容易ではありません。
欧米などのように歯科治療は自費治療になる場合が多いですから、治療が高いので虫歯にならないように定期的にメンテナンスを行う習慣があります。現在の保険制度が変わり、例えば補綴の保険適用が無くなったりすれば日本でも受診率は上がるでしょう。 予防が浸透する事により医療費の削減も可能だと思っています。糖尿病患者においては、歯周ケアを良好に行うことで医療費や入院を抑制できる可能性があると研究論文が発表されたり、歯の病気により他の病気を引き起こしたり、進行が早まったりします。
歯科予防に対する注目度は高まっていますが、まだ不十分だと言えるでしょう。
一昔よりも予防の考え方は広まってきていると思いますが、予防だけで歯科医院を経営するまでには残念ながら至りません。しかし、予防・メンテナンスを中心とした医院経営にチャレンジしていきたいと考えています。


歯科衛生士の役割

生き残っていくコツとは 予防の重要性を広げていく為には歯科衛生士の力が必要ですし、無くてはならない戦力です。これから益々その重要性が出てくると思います。予防に対して正しい情報を患者さんにお伝えして貰わなくてなりませんから。
ただ、歯科衛生士にはもっと要求したい事があります。腰を据えてじっくり長く務めて欲しいですね。カウンセリング力、技術力、総合サービス力をもっと高めて貰いたいですね。最近は歯科衛生士の売り手市場なのかすぐに挫折する方が多いと知り合いの先生から良く話を聞きます。一緒になって取り組んでいきたいと思っています。


時代の流れを感じて

今後の歯科医院のあり方

独自マニュアルの作成20世紀までの歯科医療は一般歯科治療、すなわちむし歯や歯周病の治療、あるいはクラウン、ブリッジ、義歯を始めとした補綴修復処置が主流で、予防管理、セルフケアや高度歯科治療はまだ数が多くなかった。これが21世紀を迎えると一般歯科治療が減り、予防・管理と高度歯科治療が伸びてきました。さらに2025年を過ぎると高度歯科治療の分野も減少をたどり、残るは予防・管理、初期う蝕治療程度と予測されています。この事は人類にとっては喜ばしいことかもしれないが、歯科界にとっては厳しい時代を迎えることに繋がります。
歯科界にとって、ある程度何でも治療出来てしまう現在の保険制度に大きな問題があると私は考えています。
74年には1年に36%も診療報酬があがった時代でした。82年頃から診療報酬が落ち始め、ここ10年間では-3%の診療報酬が下がっているが、支払基金で調べてみると-23.8%も下がっているのが現状です。
さて、今後の医療政策に関してですが、医科を中心とした診療報酬改定が進み、救命救急・産科婦人科、小児科、へき地医療などに趣が傾きました。80年代からは社会保険制度の見直しが囁かれ、医療費の削減、聖域なき改革、小さな政府と民営化が進み公的医療に対しても縮小する傾向になりました。医療政策の中で歯科の「し」の字も無い事が問題だと訴えたい。


生き残っていくコツとは

情報化社会のデメリット保険診療のみでは歯科医院経営は成り立たない状況は皆さん把握していると思います。やはり自費を診療の中に如何に組み込めていくかであろうと思います。その中でも、何を重点的に力を入れるのかと言うと、WHOの資料を見ても分かる様に、これからは予防・セルフケア・ローテクの分野が主流になっていくと考えられている訳ですから、必然的にその分野に力を入れていくべきなのではないでしょうか。ヨーロッパなどでは既にこのような状態だと耳にします。
ご存知の通り、インプラントも減少傾向に入ってきました。いよいよ予防・セルフケアの時代に入ったのだと私は考えます。


NPO法人「歯と口の健康を守ろうの会」について

情報化社会のデメリット歯科の病気と言うと、むし歯を筆頭に歯周病・顎関節症など口の中にはたくさんの病気があります。またそれ以外にも口臭・歯並び・歯の色についてなど、人によってはいろいろな悩みがあります。歯科医療は日々進歩しており、治療法、処置の方法が多く発表されていますが、本当にこれらの情報が正しく国民の方々に伝わっているかどうかは疑問に思うことが多々あります。誤った情報が伝わり、健康にとってむしろ弊害になるような処置法がまま見受けられます。そこで私達(歯と口の健康を守ろうの会)は健康な歯をどのように守るか、また、最も適切と考えられている処置法などを適切にお知らせすることを目的に立ちあがったものです。まずは、国民に現状を知ってもうらいたいと思っています。
設立して10年が経ちますがなど地道にその活動をしています。この活動が国民へ伝わり大きな力になるよう今後も続けていきたいと思っています。


【おわりに】

独自マニュアルの作成いかがでしたでしょうか。
予防の重要性と診療の形態の移り変わりなど歯科業界の変化が見えてきそうですね。

安田先生、ありがとうございました!


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